智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。
有名なこの一節で始まる夏目漱石の小説がこの「草枕」だ。
画家の主人公が、「非人情」をしに写生旅行に出かける。
そこで温泉宿で女主人と出会う、自然や芸術について思索する、出かけて地元の人と交流を深める。
それで流してしまえば「ふーん」で終わってしまうのだが…。
見どころはまず、主人公の行動や思索、そして女主人との対話として描かれる漱石の芸術論。
日常を離れた「非人情」の中で、思索にふける。漢詩を吟じる。世界の美術や文学を語る。
それを大切にする在り様だろう。
「非人情」というのは、別に人倫にもとることをするという意味ではなく、人間がたくさんいる都市から離れて非日常的な世界に行く、さらに言えば少しだけ逃避する、程度の意味で捉えている。
突っ込み出したらいろいろな解釈ができるのだろうけど。
もう一つの見どころは、主人公と女主人の「恋愛譚」。
漱石は 東京帝大の教壇で'I love you.'を「月がきれいですね」と訳すよう指導したという。
そんな彼にとって、二人の語らいは恋愛を通り越してもはや官能的とすらいえるのではないかと思う。
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