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警視庁情報室のトップとして数々の公安・外事事件を解決してきた黒田室長シリーズの最終章。
第一次トランプ政権の時代、トランプとロケットマンこと金正恩はお互いを罵り合い、世界は半ば呆れ、半ば固唾を飲んで見守っていた。
その頃黒田は北朝鮮が少し前からラジオで日本に向けた暗号放送を再開していたことを気にかけていた。
このことは、北朝鮮が日本に潜伏する工作員に対して指示を出していることを意味するからだ。
そして、金正恩の叔父の張成沢が粛清されてから、工作員の亡命が増えていたことにも気づいていた。
ここから、黒田のヒューミントが始まる。
北海道出身で息子に地盤を譲った大物代議士、かねてからのロシアの情報源だったロシア通商代表部のロジオノフ、モサドで出世した旧友クロアッハらと濃密な情報交換をする。
また、情報室のメンバーのよるシギントでも、四井重工や金沢島造船に中国・ロシア・北朝鮮からハッキングの痕跡が見つかり、その元をたどると驚くべきハニートラップの実態が判明する(ここでチラつく女性代議士はおそらく辻元清美だろう)。
さらに、黒田が万世橋署長時代に尾行した人間や、行きつけの飲み屋で聞いた情報も意外な展開を見せる。
こうして、黒田と情報室は、今回も日本を狙うスパイ網の姿を浮かび上がらせる。
残念ながら、この最終章は、小説としての面白さをそれほど感じられなかった。
それとなく語られる裏情報は今回も豊富で、それはそれで楽しめる。
しかし、限られたページ数にこういった情報や、黒田の後輩へのメッセージの語りがぎっしり詰め込まれてしまった。結果、数々の情報とエピソードがバラバラに存在する印象が強くなった。
事件捜査も偶然によって重要な展開がもたらされる場面が多くなり、ストーリー性が弱い感が否めない。
シリーズ最終章なので、シリーズ全体の感想。
各巻の事件設定や、その中で語られる情報には、現実の「モデル」が想像しやすいものが多く、そこは毎回楽しめる。
しかし、毎回出てくる国内政治談義は、あまりにもナイーブな安倍晋三礼賛で、いささか鼻白んだ。警察、それも公安なら岸信介から安倍晋太郎、晋三へと連綿と続いてきた統一協会(このシリーズでは世界平和教)との黒い関係を知らないはずがないだろう。しかし、一言も出てこない。それは偏向が過ぎるというものだろう。
また、黒田の語りからは、上から目線の愚民観が色濃く感じられた。これが公安に瀰漫しているとすれば、それは危険だと言わざるを得ない。
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