2021/08/18

栗山大膳(森鴎外)

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江戸時代前期、福岡藩黒田家で起きたお家騒動(黒田騒動)の起こりと顛末を取り上げた短編小説。黒田騒動は江戸時代の三大お家騒動(あと2つは伊達騒動・加賀騒動)の一つ。

江戸時代には黒田騒動を扱った歌舞伎がいくつも作られたというが、現代では栗山大膳、何それ、おいしいの?という反応も無理からぬところと思われるので、騒動のさわりだけを記しておきたい。

黒田長政は関ヶ原の戦いにおける軍功から幕府より福岡五十万石の所領を与えられ、家来の栗山利安と強い信頼関係で結ばれていた。

しかし、長政の息子忠之は素行に難があった。贅沢を好み、お気に入りの小姓倉八十太夫を取り立て、やがて十太夫一派が藩内で悪しき権勢を振るい始める。栗山大膳(利安の息子)をはじめ忠臣たちが諫言すると忠之は彼らを遠ざける。ついに大膳が忠之への伺候を取りやめ、緊張が最高潮に達したとき、大膳が捨て身の行動に出て、ここに幕府が介入するお家騒動に発展する。ここまではよくありそうな話だが、経過と顛末は読んでみてのお楽しみ。

事実を簡潔に淡々と記す短編というスタイルに鴎外の風合いを感じる。福岡藩士が籠城を計画する場面では、藩士の配置を一人ずつ実名で記録するかのような箇所がある一方で(ここは唯一しつこさを感じた)、筋書きは何箇所か史実と異なるらしい。

2021/08/13

みちの記(森鴎外)

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鴎外が明治23年8月、信越本線沿いに信州山田温泉に旅行したときの日記。

信越本線は一部できてはいたものの碓氷峠付近は馬車鉄道で峠越えに難儀したり、変な半可通の髭男に辟易したり、大雨で鉄道が壊れて帰りに苦労したり。

洋服を着ているとどこでも優遇されるという観察も。

古文体なので少し戸惑うかもしれないが、そんな当時の社会事情が垣間見えるところが面白い。

2021/08/02

カズイスチカ(森鴎外)


casuisticaというのは、症例集とか、臨床報告という意味のようである。

主人公の花房が医学部を卒業する頃、開業していた父親の代診をしていた思い出を語る形で展開する。おおかた鴎外自身の駆け出しの思い出が背景にあるのだろう。

父親は最新の外国の医学書はあまり読まず(読む根気を失っている)、消毒の概念さえ理解していないのだが、患者の死期は正確に当てるなど花房に敵わないところがある。その中で花房は、父親はどんな患者であれ、目の前の患者を診ることに全精神を傾けている点が自分と違っているという気付きを得る。花房にしても父親にしても、それが許されるおおらかな時代だったんだなと。

その後、代診の頃の花房の症例集が3点。ネタバレは控えるが、顎が外れたが他所では治してくれないとか、息子が一枚板になったから往診してくれとか、他所で腹水がたまっている、ガンじゃないか、だから穿刺はできないと言われた患者が来たりとなかなかの活躍。