江戸時代前期、福岡藩黒田家で起きたお家騒動(黒田騒動)の起こりと顛末を取り上げた短編小説。黒田騒動は江戸時代の三大お家騒動(あと2つは伊達騒動・加賀騒動)の一つ。
江戸時代には黒田騒動を扱った歌舞伎がいくつも作られたというが、現代では栗山大膳、何それ、おいしいの?という反応も無理からぬところと思われるので、騒動のさわりだけを記しておきたい。
黒田長政は関ヶ原の戦いにおける軍功から幕府より福岡五十万石の所領を与えられ、家来の栗山利安と強い信頼関係で結ばれていた。
しかし、長政の息子忠之は素行に難があった。贅沢を好み、お気に入りの小姓倉八十太夫を取り立て、やがて十太夫一派が藩内で悪しき権勢を振るい始める。栗山大膳(利安の息子)をはじめ忠臣たちが諫言すると忠之は彼らを遠ざける。ついに大膳が忠之への伺候を取りやめ、緊張が最高潮に達したとき、大膳が捨て身の行動に出て、ここに幕府が介入するお家騒動に発展する。ここまではよくありそうな話だが、経過と顛末は読んでみてのお楽しみ。
事実を簡潔に淡々と記す短編というスタイルに鴎外の風合いを感じる。福岡藩士が籠城を計画する場面では、藩士の配置を一人ずつ実名で記録するかのような箇所がある一方で(ここは唯一しつこさを感じた)、筋書きは何箇所か史実と異なるらしい。