2017/07/30

文鳥(夏目漱石)

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文鳥・夢十夜 (新潮文庫 なー1-18) [ 夏目 漱石 ]
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漱石が 鈴木三重吉にそそのかされて文鳥を飼った一部始終を描いた短編。

最初はせっせと世話をしながら忙しい執筆活動の癒やしにするのだが、だんだん世話に飽きるというお決まりのパターンを、明治の文豪が赤裸々に語る。そして、文鳥の姿の描写がとても細やかで感心する。

やっぱり、動物は他人にそそのかされて飼うのではなくて、自分の意志で最後まで責任を持つ覚悟を持って飼い始めないといけませんな。

2017/07/09

薤露行(夏目漱石)


 「かいろこう」と読む。

薤とはらっきょうのことで、薤の葉の上に置いた露は消えやすいところから、人の世のはかないことや、人の死を悲しむ涙を薤露という。転じて、葬送のときに歌う挽歌の意味もあるという。

そこで薤露行だが、アーサー王物語の一部をなす、騎士ランスロットをめぐる女達の恋を漱石流に小説化したものである。

【以下、ネタバレ注意】

アーサー王配下の騎士ランスロットは、王妃ギニヴィアと不倫関係にあった。
ある日、アーサー王国の騎士たちの試合で、王と騎士たちが宮殿を空にする間にランスロットは宮殿を訪ねる。ランスロットは仮病で試合を欠席し、この機会に密会しようとしたのだった。しかし、関係が噂になり始めたことを気にするギニヴィアに説得され、遅ればせながら試合のある北方へと向かう。

北方に向かう途中ランスロットは一泊する。宿屋の娘エレーンはランスロットに恋をする。エレーンは深夜ランスロットの寝室を訪ね、愛の印として自らの赤い服の袖を渡し身に付けるよう頼む。変装して身分を隠して試合に出ようとしてたランスロットはその思惑を含みながら承知する。

ランスロットは試合で負傷し、ギニヴィアはアーサー王から、エレーンは同じく試合に出ていた兄からその様子を聞かされる。同時に、ランスロットが他の女に心惹かれていたことを示唆する出来事も。未だ戻らぬランスロットを案じつつ、二人の女は対照的な反応を示す。ギニヴィアは夫の前であるにもかかわらず嫉妬を抑えられない。一方で、エレーンは絶望して食を断ち自死する。

エレーンの亡骸は、本人の生前の希望で多数の花、そしてランスロットへの手紙とともに舟に乗せられて川を下る。舟が宮殿に着き、宮殿は騒ぎになる。そしてギニヴィアがエレーンの手から手紙を取って読む。ギニヴィアはランスロットが試合で身につけていた赤い袖の持ち主がエレーンであることを知り、涙するのだった。

【ネタバレ注意ここまで】

原作ではランスロットは多くの女性と関わりができるのだが、この小説ではエレーンの悲恋の物語にスポットが当たり、ギニヴィアはエレーンとの好対照をなす引き立て役の感が強い。それは、薤露行(はかなさ・死を悼む涙)というタイトルに、そしてランスロットの負傷や騎士たちに不倫を告発されたギニヴィアの顛末に触れられていないところに現れている。

原作ではランスロットやギニヴィアのその後も描かれており、むしろギニヴィアの不倫が物語を動かしてゆく。漱石は、独自の世界観によって薤露行を書いたのだ。