明治・大正・昭和と親子二代にわたって受け継がれる大阪、船場商人の魂の物語。
店の軒先に掲げる暖簾が、家業の象徴、また魂を次代に引き継ぐDNAとして親子の精神的な支柱となり、家業を導いてゆく。
あらすじ
明治29年に、先代が淡路島からほとんど身一つで船場に上り、同郷の昆布屋の主人に拾われるところから物語が始まる。
持ち前の勤勉さと節約で、兄弟子を追い越し異例の速さで番頭に昇進し、ついに本家からの暖簾分けを果たし、浪花屋を開店する。
その後現地での仕入・加工工場設立に他店に先駆けて取り組み、関東大震災や室戸台風の打撃も乗り越えるが、太平洋戦争の空襲で遂に焼失の憂き目に遭う。
大学を出て修業を始めるも、初めは頼りなかった二代目は、復員後に昆布の仕入・加工・販売のすべてを学び取る。そして父の死を乗り越え、戦後の経済復興の波を的確にとらえて復興を果たしてゆく。
その過程で見た目やしゃべり方までが先代そっくりになっていく。
感想
丁稚奉公から叩き上げ、経験と勘、そして気骨でのし上がった父。それに対し、大学で学び、理論や合理性も備えたインテリとして戦後の混乱期に挑む息子。
二人の商売へのアプローチは対照的だ。しかし、その根底に流れる「客を欺かず、本物だけを届ける」という「のれん」への想いは同じである。
いつしか息子が、見た目やしゃべり方が先代そっくりになっていったのは、DNAの作用だけではない…、ふとそんな思いが浮かぶ。
時代の変化の中で、守るべきものは何か、変えるべきものは何か。この親子二代の葛藤と継承のドラマは、現代の事業承継やイノベーションの問題にも通じる、普遍的なテーマを我々に投げかけてくる。
さて、物語は神武景気の頃で終わる。
日本はその後も様々なドラマを経験する。その後の高度成長・オイルショック・バブル経済・平成不況・少子高齢化などなど。
変容する社会の中で浪花屋も翻弄されたであろうし、21世紀を迎えられたかどうか。先細りや廃業したかもしれない。そんなその後の物語に想像がめぐる。
こんな人にオススメ
- 山崎豊子の『花のれん』や、大阪を舞台にした物語が好き
 - 明治から昭和にかけての、激動の時代を描いた物語が好き
 - 商売やビジネスの原点に触れたい経営者・ビジネスパーソン
 
 
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