大阪河内長野の大地主の家に生まれた総領娘が恋に短歌に生きようとするも、あまりに封建的な家に縛られ、陰鬱のうちに過ごした一生を描く。
あらすじ
終戦直前の昭和20年6月、語り手は空襲を逃れ、兄の伝手で河内長野の大地主の『御寮人様』葛城郁子の家に身を寄せる。郁子は老婢と二人暮らしで、食糧難にもかかわらず豪華な食事に彼女は驚く。
ある日、語り手は納屋から男性と思われる弱々しい声を聞くが、郁子も老婢も空耳だろうの一点張りで、その後彼女が納屋に近づくことを阻止する。しかし、ある日男性が体調を崩し、郁子の指示で彼女は医者のもとに走るが、その甲斐なく男性は死亡する。
そんな不思議な日々も終戦で終わり、1年経ったある日、彼女は老婢から手紙を受け取る。手紙には郁子の死と、郁子の人生について話をさせてほしいという老婢の願いが記されていた。彼女が老婢を訪ねると、老婢は郁子が歌人御室みやじであったことや、郁子の一生を語り始める…。
感想
老婢が語る郁子の一生は、家庭内の多くの確執と陰謀に翻弄されたと言える。
これは、自身の妥協のない誇り高さが拍車をかけた側面もあるが、やはり、戦前の大地主の家というものの軛がいかに強烈に、郁子の自由な精神と生き方を圧し潰していったか、ということに尽きる。
そして、何と言ってもこの本を最後まで読んでしまう理由は、納屋に閉じ込められた男性の存在にある。誰が、なぜ、そのような仕打ちを受けることになったのか。それを知りたいという欲求に抗うことは難しい。
この、サスペンスが絡む閉ざされたピラミッドの中で繰り広げられるドロドロが読みどころ。
「白い巨塔」や「華麗なる一族」に通じるけれども一味違う、特別な山崎豊子作品になっている。
こんな人におすすめ
- 山崎豊子の『女系家族』や『白い巨塔』のような、濃厚な人間ドラマが好き
- 明治・大正・昭和の封建的な家制度や、女性の生き方に興味あり
- ミステリー仕立ての構成や、少しずつ謎が明かされていく物語が好き
明るい気持ちや、希望を感じることはできないので、この点はご注意を。
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