代々、女系(長女が婿を取って家督を継ぐ)で続いてきた大阪船場の老舗問屋の相続のゴタゴタを、コミカルなタッチで描く。これまで何度もドラマ化されている。
山崎豊子は、初期の大阪船場の商人モノと、後期の社会問題や社会現象を題材にしたドロドロ劇が多いのだが、これは両者をミックスしたような作品である。
あらすじ
船場の問屋矢島屋の主が病気で早世した。臨終直前に遺言書を番頭に手渡し、人払いまでしてこっそり愛人を呼んで最後の言伝をする。
妻はすでに亡く、実子は娘が三人。出戻りの長女・婿を取って矢島屋を継いでいる次女・まだ学生でのんびりした三女が莫大な遺産の相続者となる。この家系は、代々惣領娘が婿を取って続いてきた女系家族、主ももちろん婿養子で生前肩身の狭い思いをしていた。
葬儀後の親族会議で番頭が遺言書を読み上げ、そのわずかな曖昧さと、初めて明かされる愛人の存在により争続の幕が上がる。
争続は親族内にとどまらず、娘たちに取り入っておこぼれにあずかろうとする者、長年横領を働き遺産からも分捕りを企てる番頭、主の忘れ形見の出産に必死な愛人が入り乱れて壮絶な駆け引きが繰り広げられ、ようやく着地が見えたと思ったら、大どんでん返しで争続の幕が下りる。
感想
娘+愛人の争族劇に渦巻く、女たちの腹の探りあいや主導権争いを描かせたら、やはり山崎豊子をおいて他にいなかったと思わされる。
そして、争続劇の人間関係だけではなく、遺言・相続・不動産鑑定の実務がストーリーにしっかり織り込まれており感心する。
また、毎回不規則発言で紛糾する親族会議に懲り、娘三人の個別撃破でシャンシャンを狙う作戦に切り替える番頭の姿が、大企業のサラリーマンにも似てどこかユーモラスな哀愁を誘う。このあたりが物語にコミカルな彩りを与えている。
物語は昭和34年の設定で、船場にもビルが増え、ビルの谷間に残された商家での相続、と描写されている。相続後まもなく高度成長が始まり、娘たちや愛人も時代の流れに翻弄されたことだろう。彼女たちの人生ももう終盤である。
高度成長から平成不況を経て少子高齢化に至る日本の中で、最後に笑ったのは誰か、「その後」の物語に想像を逞しくしてしまう。
こんな人におすすめ
この作品のテーマは、人間の欲望、特に金銭欲や支配欲に絡む骨肉の争い。『白い巨塔』や『華麗なる一族』などで繰り返し取り上げられる山崎豊子の定番である。
この手の山崎豊子作品だと、最後にだいたい主人公が死ぬのだが、この作品はそうはならない(そもそも主人公を一人に特定することが難しい)。しかし、一味違う見事などんでん返しが待っている。
そんな本作は、こういう人におすすめしたい。
- 山崎豊子の『白い巨塔』や『華麗なる一族』が好き
- 遺産相続や不動産・法律の物語に興味あり
- 最後に大どんでん返しがある、スカッとする物語を読みたい
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