終戦時に中国に取り残された孤児と日本に帰還した父親の数奇な運命を、壮大なスケールで描いた感動作。
あらすじ:戦火に引き裂かれた父子と、陸一心として生きた激動の半生
ソ連と満州国国境に近い日本人開拓村にいた松本勝男は、1945年8月9日のソ連侵攻で両親と生き別れ、一緒に逃げた妹あつ子ともやがて引き離されてしまう。
実直な養父母に引き取られた勝男は、中国人陸一心として育てられ、大学を出て北京鋼鉄公司の技術者として働き出す。しかし、学校では「小日本鬼子」といじめられ、文化大革命勃発後は日本人であることを理由に職場でも理不尽な弾圧を受け、挙句の果てに収容所に送られてしまう。
実父松本耕次は引揚後東洋製鉄に勤め、仕事のかたわら生き別れとなった子供の消息を尋ね続けていた。昭和50年代になって上海の巨大製鉄所建設プロジェクトが始まり、耕次も東洋製鉄から上海に派遣される。
この後の耕次・勝男(一心)・あつ子の運命は読んでのお楽しみとするが、見当はつくだろう。
感想:『大地の子』が描く中国共産党の闇と、国策に翻弄された個人の尊厳
昭和恐慌に端を発する事実上の棄民政策に端を発し、ソ連侵攻が引き金を引いた悲劇の実相は胸に迫る。
また、中国に取り残された孤児の運命が多様であったことも教えられる。かつてテレビで見た中国残留日本人孤児として訪日する人ばかりではない。
あつ子のように養父母に虐待同然の扱いを受けた人もいれば、勝男のように養父母の慈しみを受け、自ら中国人として生きる道を選んだ人もいる。
自分が日本人であることを知らされないままの人もいる。
しかし、誰もが中国の現代史の荒波と無関係ではいられなかった。
また、上海製鉄所建設を巡る中国共産党の苛烈な政争と腐敗、文化大革命で散々行われた吊るし上げ、強制収容所の実態など、中国共産党政権の闇と狂気がリアルに描かれ、これも非常に興味深い。
山崎豊子の日中両国の取材の成果が凝縮されているといえる。
【独自】なぜ2世・3世は「怒羅権」となったのか―現代につながる歴史の背景

| 時代・フェーズ | 状況と背景 | 『大地の子』との関連 |
|---|---|---|
| 1945年 終戦・残留 |
ソ連侵攻と混乱の中、多くの日本人が中国に取り残され「残留孤児」となる。 | 主人公・陸一心(松本勝男)が家族と生き別れ、中国の養父母に育てられる発端。 |
| 1966-76年 文化大革命 |
「小日本鬼子(日本人の子)」として激しい差別と迫害を受ける。 | 一心が冤罪で強制収容所へ送られ、過酷な労働を強いられる物語の中核。 |
| 1980年代〜 帰国と孤立 |
永住帰国が実現するも、日本語の壁や差別により日本社会で孤立。貧困が連鎖する。 | 一心は帰国せず、描かれていない(「警視庁公安部・青山望」などに詳しい) |
| 現代 怒羅権の形成 |
いじめに対抗するために結成された自衛グループが、やがて半グレ集団「怒羅権(ドラゴン)」へと変貌。 | 描かれていない(「警視庁公安部・青山望」などに詳しい) |
「大地の子」の中心テーマの中国残留日本人孤児。身元が判明して日本に帰国できたとしても、それでよかったとは手放しで言えないかもしれない。帰国した人々のその後は苦労の連続であったからだ。
帰国後の苦しみと日本で感じた疎外感が、後日、2世・3世による半グレ集団「怒羅権」の結成につながったことは、よく知られている。いじめや差別の罪深さを感じる。
半グレ集団成立の経緯については、「報復連鎖」をはじめとする「警視庁公安部・青山望」シリーズを読むとよく分かるだろう。
歴史の学び直しとして『大地の子』をおすすめする人
- 歴史の大きな渦に翻弄される、個人の生き様を描いた物語を読みたい
- 家族愛がテーマの感動的な物語を読みたい
- 山崎豊子の骨太な社会派小説が好き
- 中国の近現代史とその闇にに興味がある

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