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塩野七生

【書評】『ロードス島攻防記』圧倒的物量で迫るオスマン帝国と、聖ヨハネ騎士団の凄絶な戦い

塩野七生 ロードス島攻防記

1522年4月から12月にかけて繰り広げられた、小アジア沖のロードス島を巡って戦われた攻防戦。この戦いを、ロードス島を守る聖ヨハネ騎士団サイドの記録をもとに小説化した戦記小説。

コンスタンティノープルの陥落」「レパントの海戦」とまとめて「海戦三部作」という電子書籍の合本版になっているが、この作では海戦の要素は小さい。

あらすじ

1453年のコンスタンティノープルの陥落から約70年たった1522年。オスマン・トルコはスレイマン1世のもと最盛期を迎えていた。
版図はトルコからアラビアを周ってエジプトに至り、地中海の東半分をまさに『三日月』のように取り囲む一大帝国に成長。

しかし、トルコの南西わずか18kmの沖にあるロードス島は、十字軍崩れの聖ヨハネ騎士団が拠点とし、地中海を行き交うトルコ船に海賊行為を働くという、キリストの蛇の巣と形容される島になっていた。
ヨーロッパ世界から見れば、トルコを監視し、抑止する最前線である。
現代の台湾のような島と言えるだろうか。

オスマン・トルコは2度にわたりロードス島攻略を試み、失敗に終わっていたのだが、スレイマン1世が3度目の正直を期し、まずは聖ヨハネ騎士団に臣下になるよう脅す。
しかし、騎士団は無視で返答。

ここに、3回目のロードス島攻防が始まる。

感想

壮大な島嶼攻略戦

開戦時の陸上戦力10万、その後も増派を続け、お得意の物量作戦を展開するオスマン・トルコに対し、聖ヨハネ騎士団はロードス全土からかき集めてやっと5千で籠城。

この圧倒的な物量に聖ヨハネ騎士団がいかに対抗し、そしてオスマン・トルコは大砲やトンネル作戦でいかに攻勢をかけたか。

大砲、工兵、諜報、そして白兵戦という、当時の陸戦の要素がふんだんに詰まった壮大な戦記は息もつかせず読みごたえ満点だ。

そして織りなされる男と女の悲劇と、勝者と敗者が残酷に分かれる悲哀の停戦。『ドラマ』も忘れられていない。

知る人ぞ知る聖ヨハネ騎士団のその後

塩野七生の小説は、登場人物のその後が丁寧に記録される。本書も例外ではない。
聖ヨハネ騎士団のその後―知っている人は知っているが、知らない人が聞けば驚くことだろう。

長い歴史の中では、一つの敗北は一瞬の出来事。
「負けっぷりが大事」というお手本ではないだろうか。

読ませる「プロローグ」

ロードス島戦記を始めるにあたり、ロードス島と、ロードスを守る聖ヨハネ騎士団の前説が必要なのだが、それが「読ませる」面白いものだった。

聖ヨハネ騎士団の歴史

聖ヨハネ騎士団は十字軍の時代に組織された、エルサレムの警備 兼 病院 兼 守備隊である。その設立の歴史と十字軍壊滅後のロードス島との関係が簡潔に記されている。
これが、同じ塩野七生による「十字軍物語」のコンパクトなダイジェストになっており、十字軍物語を読んだことがあれば、ああそうだったと思い出すことだろう。

ロードス島

さらにロードス島。ギリシャ時代から学問の都として栄え、一時衰退したが、聖ヨハネ騎士団を受け入れることにより、その背後のヨーロッパの王侯貴族からの投資を受け再び栄える。

この島が、夏は北風、冬は南風で気候が温和になり、しかも伝統と旧跡に恵まれているとなれば、ロードス島に1ヶ月バカンスに行きたくなるというものである。

イタリアそしてローマ・カトリック教会

聖ヨハネ騎士団はもともとキリスト教騎士団であることから、ローマ・カトリック教会とは切っても切り離せない。

背景となるローマ教皇や、ローマ周辺の豪族、イタリア地方の海商国家群の情勢の記述も簡潔明瞭である。このころのローマ情勢は「チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷」に詳しいだろう。

こんな人にオススメ

  • 『コンスタンティノープルの陥落』など、塩野七生の戦記物が好き
  • 中世ヨーロッパの騎士団や、十字軍の歴史にロマンを感じる
  • 戦争における戦略・戦術や、リーダーシップに関心あり

塩野七生ファンで電子書籍がいいという人は、「コンスタンティノープルの陥落」「ロードス島攻防記」「レパントの海戦」をセットにした「海戦三部作」がオススメ。

聖ヨハネ騎士団の発祥からの歴史に興味がある人は、同じく塩野七生による「十字軍物語」がオススメ。

この記事を書いた人
Windcastor

小説・ビジネス書・エッセイなど幅広く読む読書ブロガー。
「本の扉を開く」では、話題の新刊や名著を中心に、読後に残る気づきや感想をわかりやすくまとめています。
次に読む一冊を探すきっかけになれば幸いです。

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