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塩野七生

塩野七生『コンスタンティノープルの陥落』|若きスルタンと最後の皇帝の壮絶な戦い

塩野七生 コンスタンティノープルの陥落

2013年9月7日、2020年夏季オリンピックの東京開催が決定した。
このとき開催をめぐり東京と最後まで争ったのが、人口1400万を擁するトルコ最大の都市イスタンブールだった。

名前からしてイスラム教のイメージが強いためか、ここがかつて東ローマ帝国(ビザンチン帝国)の首都コンスタンティノープルであることをただちに想起する人はあまり多くないようである。

世界史を変えたコンスタンティノープル陥落

この地がイスラム世界に組み込まれたのは、1453年のオスマン・トルコによる征服だ。

コンスタンティノープルの陥落が当時のヨーロッパ世界を震撼させたことは勿論のこと。
それ以上に、ここから押し出されたさまざまなヨーロッパ的なもの(キリスト教だったり、書物だったり、船乗り兼商人だったり…)が、その後の世界史を新たに創造していった。

この世界史の転換点となった一大事件を、当事者たちの視点で活写したのが、「コンスタンティノープルの陥落」である。

あらすじ

忍び寄るオスマン・トルコ

1299年に建国されたオスマン・トルコは、100年以上かけて版図を拡大していった。

1444年、若き君主マホメッド2世(メフメット2世)が即位。一度はイエニチェリ(近衛軍)の反乱で退位を余儀なくされたが、1451年に再即位を果たし、オスマン・トルコによる覇権の確立を期してコンスタンティノープルの攻略に着手する。

対するビザンチン帝国は、金を脅し取られ、近くに要塞を作られ、しまいには命だけは保証してやるから出ていけと言い出すオスマン・トルコに怯え、西ヨーロッパや教会に軍事支援を求めるが、遅々として進まないことに業を煮やす。

ヨーロッパの打算、そして開戦へ

ローマ・カトリック教会は、ビザンチン帝国が独自にギリシア正教会を構えていることがかねてから目障りで仕方がなく、軍事支援をエサに「東西統一」と称してギリシア正教会を呑み込もうとする。

さらに、地中海を股にかけた交易で富を築き、強大な海軍力を持つ都市国家のヴェネツィアとジェノヴァ。どちらもコンスタンティノープルに大きな利権を持つがゆえに反目しあい、防衛に対するスタンスは異なっていた。

そしてついに、1453年4月2日のオスマン・トルコの攻撃を迎える。

天然の要害に守られ、しかもかつてイスラム世界の襲撃を2度も退け、誰もが不落と信じていたコンスタンティノープルだったが、激戦約50日を経た5月29日、ついに運命の日を迎える。

感想

初め、オスマン・トルコの勃興とマホメット2世の台頭や、ビザンチン帝国を取り巻くヨーロッパ世界や登場人物の紹介がある。

小説として当然の入口なのだが、特に第3章あたり、ちょっとダレてしまった…。

年を取って気が短くなったからかもしれないが。

戦いを迎えて

戦いが始まると、小説のトーンは一変し、戦いがテンポよく文字通り活写される。

難攻不落を誇るコンスタンティノープルを落とすためにマホメッド2世が繰り出すあの手この手、そして迎え撃つビザンチン帝国の知恵比べが面白く、一つの見どころである。

その中には、最先端の大砲もある。技術革新によって生まれた兵器が、堅固な城壁を文字通りぶっ壊していく。現代のドローンと重なる普遍的なテーマだ。

また、最後に、絶望的な状況でコンスタンティノープルを守ろうとする人々の英雄的な戦いぶりは(例外もあるのだが…)、お涙頂戴的なハイライトだろう。

何が勝敗を分けたのか

オスマン・トルコに勝利をもたらした理由は、戦術・世界情勢など様々な角度から挙げられるだろう。それは、戦いの経過からも多数ほのめかされている。
あえて根源なるものに絞って挙げるとすれば、これらではないだろうか。

  • 独裁者マホメッド2世のパッション。悪く言えば狂信で、軍事的なリソースをコンスタンティノープルに注ぎ込んだ。
  • ビザンチン陣営の同床異夢。所詮は個々の利権が目的で集まっていたために、支援の遅れを招き、疑心暗鬼を招き、最後まで団結できなかった。

一人の独裁者が大国のリソースを思うがままに動かせるオスマン・トルコと、多数の国家に分断され、利害調整がすべてに優先するヨーロッパ。
科学技術に決定的な差がない状況だと、動員の効率で事が決まってしまう…。
これも、現代の世界情勢と重なって見える。

圧巻のエピローグ

最終章の「エピローグ」。ここで登場人物たちの陥落後の軌跡が詳らかにされる。
プロローグとは異なり、もうダレることはない。
それは、戦いと陥落を追体験し、登場人物たちに多少なりともシンパシーを感じられるためだと気付かされた。

さらに、この小説が単なる創作ではないことを知れば、驚くのではないだろうか。

こんな人にオススメ

  • 『ローマ人の物語』など、塩野七生作品が好き
  • 世界史、特にビザンツ帝国やオスマン帝国の歴史に興味あり
  • 国家のリーダーシップや、組織の意思決定に関心のあるビジネスパーソン

塩野七生ファンで電子書籍がいいという人は、「コンスタンティノープルの陥落」「ロードス島攻防記」「レパントの海戦」をセットにした「海戦三部作」がオススメ。

この記事を書いた人
Windcastor

小説・ビジネス書・エッセイなど幅広く読む読書ブロガー。
「本の扉を開く」では、話題の新刊や名著を中心に、読後に残る気づきや感想をわかりやすくまとめています。
次に読む一冊を探すきっかけになれば幸いです。

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