コンクリートの壁を越えれば、そこはアメリカ。
焼けつくような陽射しと、鼻をつくジェット燃料の匂い。戦後の沖縄には、奪う者と奪われる者、そしてそのどちらにもなれずに足掻く者たちの熱気が渦巻いていた。
真藤順丈『宝島』を開いた瞬間、私たちは安全な現代から引き剥がされ、英雄オンちゃんたちが疾走する「戦果アギヤー」の夜へと放り込まれる。これは青春小説ではない。大国に翻弄されながらも、命を燃やして未来をもぎ取ろうとした、島の魂の記録。
第160回直木賞。山田風太郎賞・沖縄書店賞も受賞し、沖縄でも評価が高い。妻夫木聡主演で映画化。
あらすじ
終戦後、1950年代の沖縄本島・コザ。そこには伝説の「戦果アギヤー」がいた。
オンちゃんとその弟のレイ、そしてグスクは、戦後沖縄に数多造られた米軍基地から物資を略奪し、「戦果」を地元に配り、ついには学校まで建ててしまった。アメリカという暴力と、日本という不在の狭間で血を流し続けた沖縄で、戦果アギヤーは、「いまだ終わらない沖縄戦」でもあった。
そんな彼らが、ある日、沖縄各地の戦果アギヤーたちと共同で嘉手納基地を襲うが、警備の米兵に見つかる。米軍が、戦果アギヤーは射殺可との強硬路線に転換した折、ある者は銃弾に斃れ、ある者は負傷してその場で逮捕され、ある者はかろうじて脱出する。
結局、レイは逮捕され、グスクはかろうじて逃げ延びたが負傷。オンちゃんは消息不明となった。「生きながらえて帰還することが最大の戦果」というオンちゃんの言葉を信じて待っていた恋人のヤマコは、その言葉を信じて必死に探すが(後に回復したグスクとともに)、杳として手がかりは知れない。レイはレイで、嘉手納襲撃の背後に沖縄と本土・大陸をつなぐ密貿易団クブラの影を聞きつけ、獄中でクブラのキーマンを探し始める。
オンちゃんへつながる糸は、多少は伸びるが遠いまま時間が過ぎていく。その間にグスクは警察官兼琉球米軍司令部の諜報員、ヤマコは教師兼祖国復帰協議会の活動家、レイは実力行使で体制転換を企むレジスタンスになり、沖縄戦後史に残る数々の事件の渦中に居合わせることになる。
そして、沖縄の本土復帰決定後の1970年、あの『コザ暴動』を経て三本の線が一点につながる。
感想
那覇市の沖縄県立博物館に行くと、旧石器時代から現代までの沖縄史が、展示品とともに解説されている。その中に、終戦直後のアメリカ世で、酸素ボンベやら砲弾の薬莢やらのゴミを再利用して作った生活物資がある。中には戦闘機の部品を溶かして作った鍋や釜といった、材料の出所に首を傾げたくなるものがあった。こうしたものの中に「戦果」が混じっていたのかもしれない。
この本は、一読すれば言うまでもなく、「鉄の暴風」から、「核抜き・本土並み」という挫折に至る、沖縄戦後史が背景にある。それを、アメリカに内通する沖縄の官憲・左派活動家・極左まがいのヤクザという、極端だが、さまざまな立場の目線で垣間見せてくれる。
寄れば内ゲバが始まりそうだが、やはり、オンちゃん、そして沖縄の未来を切り拓きたいという通底するものが、激しい葛藤を秘めながらも、3人を最後まで、そしてコザ暴動後もつなぎ止める。
さて、この本、オウム事件や小池百合子劇場といった、平成前半の本土の事件や政治の動きをそれとなく取り入れているように見受けられる。それが荒っぽいフィクションをどことなくありそうな話へと和らげているようだ。
こんな人にオススメ
物語の舞台を訪れる
コザの熱気を目撃する
本作の舞台となったコザ(現在の沖縄市)には、今もアメリカ文化の色濃い独特の空気が残っている。ゲート通りのネオン、壁に描かれた極彩色のストリートアート…
姉妹ブログ『日本の絶景をスマホ写真で綴る旅ブログ』で、現在のコザの風景を写真で紹介する。
Next Issue… 聖地巡礼
さらに、「英雄」たちが駆け抜けた那覇の重要スポット(琉球銀行・ハーバービューホテル・立法院など)を巡る「聖地巡礼」も現在準備中。 2025年の那覇に、「あの頃」の幻影は残っているのか?

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