明治後期、鉱山掘りの男の町で繰り広げられる光景を描いた、リアルさを感じる「小説」。
他の漱石の小説とは雰囲気が異なる、異色の作品といえようか。
あらすじ
許嫁がいるにも関わらず、その妹と恋愛関係に陥りそうになったことに苦に家出した主人公。
丸一日歩いていると、ポン引きに儲かる働き口が在ると誘われ、ついて行った先は銅山だった。
銅山の街は都市から隔絶され、独特の習慣や風俗が広がる空間だった。
新入りの主人公をいじめる荒くれ者やひねくれ者の坑夫もいれば、早く帰ったほうが良いと諄々と諭す坑夫もいた。事情があって坑夫になった者も多かった。また、過酷な坑道の見学で体力を極限まで使い果たし、精神が生と死の間で両極端に振れるような体験もした。
そんな異空間での体験と心の動きが、刺激的な表現(昔の小説でなければとても出版できない)を交えながら、微に入り際を穿つように語られる
結局、誰から見ても坑夫は勤まりそうにない主人公は、健康診断で病気を「発見」される。
医者も一目見て、経歴も確認してこいつには坑夫は無理と思い、診察するふりだけして引導を渡したのだろう。
感想
葬儀をジャンボーという辺り、北関東から福島県周辺の鉱山ではないだろうか。
そうなるとここは足尾か日立?
日本では昭和にかけて、軍艦島や北海道の炭鉱の町など、鉱物資源採掘のための町ができ、消えていったが、それらよりもはるかに濃い「山の男の閉ざされた世界」の雰囲気がよく分かる。
Wikipediaにこの小説が書かれた背景が載っている。漱石が田中正造に触発されて書いたわけではなさそうだが、当時の読者は足尾銅山事件の記憶を重ね合わせて読んだことだろう。
こんな人にオススメ
- 夏目漱石の新たな一面に触れたい
- 社会の「異空間」や、極限状態の人間の姿を描く物語が好き
- 明治時代の社会問題、特に労働問題に関心あり



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