漱石お得意の、男女の深淵に広がる漆黒の闇をこれでもかとえぐり出すドロドロ小説になるはず、だった。「こころ」や「虞美人草」のように。
しかし、執筆中に漱石は永眠。まさにこれからゲス化するその寸前で突然終わっているのは残念だ。
あらすじ
由雄が病院で診察される場面から始まる。由雄は痔が悪化して手術が必要だと宣告される。
妻のお延とはどこかよそよそしく、しかも派手好みがたたり家計は火の車。由雄が手術費用を実家に無心するに至ってついに父親もキレ、援助を渋るようになる。お延が奔走し、お延の叔父の援助を受けることになったのだが…。
由雄には元恋人の清子がおり、ある日「偶然」に「再会」する。
お延も清子の影に気づき、夫婦の溝がますます深まると次の展開が…。
感想
これまで漱石が磨き抜いてきた、究極のエゴイストたちの競演とでも言おうか。
特にお延はプライドが高く支配的な面があり、かなりの恐ろしさを見せつけてくる。しかしそれは、どこか隙間風がただよう新婚生活への焦りの裏面なのだが…。
そして緊張感あふれる会話と腹の探り合いがすごい。ときに「壮絶」と言ってもよいほどだ。
彼らが、どういう旅を経てどのような終点についたのか。ぶつかり合う場面が来るのか、破滅に向けて一直線なのか、それは想像するしかない。
こんな人におすすめ
漱石ならではの男と女のドロドロ劇が未完のまま終わっているという、比類のない特徴がある「明暗」。このような人にすすめたい。
- 夏目漱石の『虞美人草』『こころ』が好き
- 未完の物語のその先を想像するのが好き
- 緻密な心理描写や人間関係のドラマを読みたい
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