いにしえのイングランドを舞台に、父祖伝来の魔力を持つ盾を騎士が、敵味方に引き裂かれた恋人と逃避行を試み、盾の魔力に助けられるという、幻想的な物語。
「薤露行」「倫敦塔」に似た、ヨーロッパに舞台をとる、美文調の作品の一つ。
あらすじ
領主たちが割拠し、騎士が道で追い剥ぎまがいの行為で武勇を示したという古の「ブレトン」。
白城の城主に仕えるウィリアムと、隣の夜鴉の城の娘クララは、幼馴染で恋人未満の関係だった。
忠義と恋の葛藤
しかし、白城の城主ルーファスは、ふとしたきっかけで夜鴉の城と諍いになり、ウィリアムとクララの往来は途絶える。
やがてルーファスは、夜鴉の城を攻め、完膚なきまでに破壊すると宣言した。
ウィリアムは主君への忠義とクララへの恋の葛藤の渦に突き落とされる。城攻めに負ければ自分が死ぬ。勝ったとしても夜鴉の城はクララもろとも皆殺し、そういう時代だった。
ウィリアムの盾
ウィリアムはクララの髪束と、4代祖先から譲り受けた不思議な盾を見やりながら葛藤に悩むのだった。それは、4代の祖先が北方の巨人を倒し、その巨人から譲り受けたもの。
百年後、南方の赤い服の美人の歌がこの盾に触れるとき、子孫が盾を抱いて喜ぶだろう、そう言って巨人は息絶えたと、伝えられていた。
クララとの再会は…?
そんなとき、ウィリアムの友人シーワルドはウィリアムに、城攻めの当日クララとともに南の国へ逃げることを勧め、逃避行の手筈も整える。
しかし、予定の船にクララは乗れず逃避行は失敗。ウィリアムはそのまま城攻めに参じる。
城攻めは一日で決着がつかなかったが、夜になって城は炎上。ウィリアムは焼け落ちたやぐらのそばにクララの姿を一瞬認めるが見失ってしまう。
なぜか、やぐらから焼け出された馬の背に乗りひたすら走り続けたウィリアムは、たどり着いた林の中で、赤い服の、クララとは違う女に出会う…
感想
最後は「この猛烈な体験を嘗め得たものは古往今来ウィリアム一人である。」となっている。途中からウィリアムの夢だったように思えるが、ウィリアムとクララは生きて再会できたのか。この解釈はいろいろあるだろう。
情景描写が豊富である。見慣れない漢語も多い。プロットを追うだけではなく、辞書を引き、ゆっくり情景を思い浮かべながら味わうのも一興だ。
そうすれば、昔のヨーロッパの城の中にいるような、幻影の盾の中に入っていったような、幻想的な追体験ができるだろう。
こんな人にオススメ
- 知られざる作品にも触れたい夏目漱石ファン
- 幻想文学や中世ヨーロッパ風の物語世界に興味あり
- 一般的な漱石作品(『坊っちゃん』『こころ』)とは異なる作品を読みたい

![倫敦塔・幻影(まぼろし)の盾 (新潮文庫 なー1-2 新潮文庫) [ 夏目漱石 ]](https://thumbnail.image.rakuten.co.jp/@0_mall/book/cabinet/0021/9784101010021.jpg?_ex=128x128)

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