官吏と作家の二足のわらじを履く木村の半日を描いた小品。
…と言うとそれまでだが、二足のわらじを含め木村の設定の多くが鴎外自身、陸軍軍医として勤めており、木村の設定と重なることから、官吏として、作家として、自身の仕事の様子や気持ちというか愚痴をこの作品で仄めかしたと思われる。
あらすじ
官吏と作家を兼ねる木村。ある平日の朝、起きて新聞を読み、食事して出勤する。そして午前中仕事をする。その間に文学のこと・仕事のこと、様々なことが頭に浮かび、不満を漏らす。
新聞を読めば「木村の作品には情調というものがない」だの「風俗を壊乱している」とこきおろされ、腹の中でその記事を書いた記者を意味のわからないことを書く奴だとバカにする。
その新聞社から応募作品の選考を依頼されていることに苛立ち、あんな記事を書くなら原稿送ってくるなと毒づく。
通勤すれば同僚の小川からくだらない議論をふっかけられて適当にあしらいながら、これも腹の中でバカにしながらほっといてくれと毒づく。
そして、文学も遊び、仕事も遊び(気分転換)だと割り切って、晴れ晴れとした顔つきで仕事をこなす。
感想
主人公の木村、官吏の仕事も執筆活動も、どこか客観的で冷めた視点から、遊んでいる気でやっていると行って憚らない。
自分が生活のためにあくせくすることに対するカッコ悪い感覚や、我を忘れて必死になることへの恥ずかしさがあるのだろう。
そして、世間のすべてに対して、常に一段高い場所から冷静に眺めることで、マウントを取りたいのだろうなと。
そのうえで、自分の作品を貶す新聞や、真剣さが見えないと文句を言う周囲に対して、全部『あそび』なのだからほっといてくれといわんばかり。
木村と言うより、鴎外に対する様々な文句への、鴎外自身のささやかな抵抗を、チラリと見せたエッセイみたいなものである。
こんな人におすすめ
- 森鴎外の人間性や素顔に興味がある
 - 短い時間で質の高い文学作品を読みたい
 - 仕事とプライベートの両立に悩んでいる
 
 
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