ゾンビ化した日本企業を買って買って買い散らかし、巨万の富を得たハゲタカが次に狙ったのは、日本の電力界のリーディングカンパニーだった…。
あらすじ
企業買収家、通称ハゲタカの鷲津は、日本で原発の建設を担う企業の買収を画策。しかし首都電力の会長濱尾が妨害工作を始める。CIAまで使嗾して親族まで脅かす濱尾にさしものハゲタカも恐れをなして退散したのだった。
その後、買収の狙いを因縁の濱尾率いる首都電力に定めた鷲津。首都電力の株の買い占めを図る一方、本格的な買収工作に乗り出すために来日したのは、2011年3月11日だった。
超巨大地震に続いた未曾有の原発事故に揺れる政府と首都電力、その中で起きていた大組織の断絶と機能不全、隠蔽工作。もちろん首都電力の株価は暴落する。
この買収の好機に鷲津は大きく歩を進め、日本の政府・首都電と鷲巣、三つ巴の買収戦が始まる。
感想
その全てを買収に利用する鷲津は非情である(しかも鷲津は、ターンアラウンドマネージャーとして名を成し、震災発生時にはベトナムに原発をセールスしていた芝野も手のひらで転がそうとする)。
権力の維持を目論む濱尾は悪辣である。
賠償費用の負担回避ばかりか事故を奇貨として電力業界のコントロールを目論む官僚は狡猾である。
この三者の熾烈な綱引きの行方、そしてわずかにでも救いがあるのか。
最後の最後まで予断を許さない。
日本社会の複合的な病理「シンドローム」
ハゲタカシリーズはフィクションだが、毎回モデル企業がわかる設定がされている。今回はもちろん東京電力がモデルである。
現実に東京電力の買収はなかったのでその部分は明らかにフィクションである。
しかし、3月11日から週末までの事故対応、アメリカとの交渉、東電の経営危機に対する対応振りの描写には、東日本大震災と福島第一原発事故の取材結果が反映されているように見受けられる。
(ただし、自民党が流した謀略情報に乗ってしまった可能性は忘れてはならないだろう)
こうした、誰も責任を取らない無責任体質。平時には機能するが、有事には崩壊する官僚システムなどなど、日本社会の複合的な病理が「シンドローム」というタイトルに滲んでいる。
こんな人にオススメ
- 『ハゲタカ』シリーズのファンで、鷲津の「非情」な決断の真意を知りたい
 - 東日本大震災や原発事故、エネルギー問題といった社会問題に関心あり
 - 国家や巨大組織の意思決定の闇を描く、骨太な社会派エンターテイメントが好き
 
 
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