現代の日本で終末期のまさに死を迎えるその時、主に医療の観点からどのような状態になるのか。延命治療の悲惨を避けるためにどうすれば良いか。
終末期医療や海外での医療に携わり、多数の患者を看取った筆者が、現代の日本で、自分の、大切な人のより良い死に方を実現するために提言する「死の教科書」。
概要
まず、今の日本の病院で死を迎えるとどのような治療を受け、患者はどのような状態になってしまうのか、実例とともに紹介される。そして在宅医療で穏やかな死を迎えた事例も。病院での延命治療は苦痛が大きそうだが、医師なりに事情がある。
家族が「死に目に会う」という価値観に縛られることも、時に医師を束縛して過度な延命治療に走らせ、患者を苦しめる結果になると主張する。
また、筆者の経験談として、海外の死との向き合い方が何か国か紹介される。いずれもアメリカや西欧ではない。特に死を博物館で徹底的に展示の題材にしているウィーンの事例は興味深い。
話題はガン治療や検診に移る。医者が望む死に方の1位は常にガンだからだ。老衰でもPPK(ピンピンコロリ)でもない。その理由もきちんと記述されているが、それは筋が通っている。「死に方の教科書」なので、余命告知の実態や、ガンを治癒させない前提の共存戦略、そしてがん検診のタブーといった話題である。
最後に、安楽死や尊厳死の社会的な議論の成熟や、ACP(自分が死に瀕した場合の延命措置の要否などについてあらかじめ意思を表しておく)の広がりに期待を寄せる。
感想
「より良い死に方を迎えるために」というタイトルの方が、ありきたりかもしれないが内容に近いかもしれない。
長い病気を経て人が死に向かう過程を、苦い経験も交えて医師の目で事実として語る。そして、医師や家族のありよう次第で患者の体験が大きく変わることも。
医師は医師なりの倫理感で、家族は家族なりの価値観(あるいは世間体)で、無力な延命治療を選ぶ方が楽だという現実。そこに棹差すには、元気なうちに
- 現代の日本で死にゆく過程を知り
- 死にゆく過程をどうしたいか自分のこととして考えて決め
- 自分の考えを深く大切な人と共有
していなければ、とても貫徹できまい。
しかし、それを実行してほしい。生をより良くすることにもつながる。それが筆者の実体験を踏まえた最大のメッセージだろう。
悟りが開けるわけではないが、未来の糧にしたい本である。




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