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濱嘉之警視庁公安部 青山望

【書評】濱嘉之『警視庁公安部・青山望 巨悪利権』|半グレ・ヤクザ・極左・中国の全てがトリカブトで繋がるシリーズ最高傑作

警視庁公安部・青山望

警視庁の同期同教場に偶然集まったノンキャリアのエース4人が、警視庁の幹部として暴力団や半グレ、中国マフィアなどの組織犯罪集団と対決するシリーズ第6作。

今回は、暴力団・半グレ・中国マフィアのほか、極左暴力集団の影が見えてくる。

あらすじ

大分の湯布院、のどかな温泉街の池のたもとで、一人のヤクザが暗殺された。
トリカブト毒を塗った吹き矢を首に刺すという変わった手口。

しかも被害者は広域暴力団幹部でヤメ検、警視庁で同期カルテットの青山と龍が独自に追っている重要人物だった。
青山は中国の爆買いに隠れた薬物密輸の元締めとして、龍は福岡を舞台とする大規模汚職のキーマンとして。

過去にも、極左の劇団乗っ取りや、京都の仏像盗難に絡む殺人事件でトリカブトが使われていたが、どちらも全容解明には至らないまま、類似の手口で殺人事件が発生したことから、青山と龍はそれぞれ捜査に着手した。

捜査を開始すると、仏像盗難の深すぎる闇、半グレから暴力団に転身した神宮寺と袁の目撃と、裏社会の影が見えてきた中、汚職の舞台となった医療法人の銀行取引を一斉調査した龍が何者かに刺される。

感想

今回は、過去作と違って次から次へと事件が起きるという展開ではない。

トリカブトと吹き矢という手口を軸に、

  • 新興宗教の女好きのマッドサイエンティスト
  • 京都大学と暴力団を卒業した伝統工芸師

といった風変わりなキャラクターを通して、過去の事件とのつながりが少しずつ解明されていく。
じっくりとした展開に、どんどん読み進めていきたくなるだろう。

龍が刺され、青山がブチギレ、警察の威信をかけた捜査が一気に進むのだが、そのとき公安の本性を剥き出しにした「青山のブチギレ語録」が強行犯刑事一筋の藤中を恐怖させるほどすさまじい。また、

  • 警察OBが警備を受託している麻薬の保管庫をイリーガルに捜索する手練手管
  • 医療法人に天下りし、捜査情報を漏洩した警察OBが、最後に理事長に反旗を翻す場面
  • 日本における中国マフィアの有害活動と中国の中央政界の関係(どこまで本当かは?)

も読ませるものがある。

青山も年貢の納め時?

今回、カルテットの中で独身を貫いてきた青山がついに見合いをさせられる。
見合いの顛末と今後のシリーズとの関わりは、次作以降要注目である。

登場人物のモデル

  • 岡広組とはおそらく山口組(山口→岡山・広島)であり、その中で経済ヤクザとして名を馳せ引退した清水保は、もし宅見勝が生きていれば…という想像の中の人物だろう。
  • 名前だけが出てくる中村会は、工藤会のことであろう。
  • 「福岡の私立医科大学の2大派閥」とは麻生太郎派と古賀誠派であり、山本誠一郎とは古賀誠をイメージした人物であろう。
  • 野々村広重は野中広務、松下亮三・松下源蔵はそれぞれ松本龍・松本治一郎がイメージされているのであろう。

事実は小説よりも奇なり

この巻では、半グレ集団東京狂騒会(もちろん関東連合がモデル)から暴力団になり、裏社会で暴れまわった神宮寺武人と、チャイニーズマフィアの龍華会(もちろん怒羅権がモデル)の袁偉仁がついに逮捕される。

しかし、実在の関東連合OBは、その後日本で逮捕・収監された者はいるが、海外で組織詐欺グループを創り上げ、アジアンマフィアになった者が何人もいた。

本作で取り上げる「日本にとどまった半グレ」以上のことが同じ時期に起きていたわけで、まさに「事実は小説よりも奇なり」を地で行く展開になっている。

こんな人にオススメ

  • 濱嘉之『警視庁公安部・青山望』や『警視庁情報官』シリーズを読んできた
  • 警察、公安、暴力団、さらには国際的な諜報戦など、社会の裏側に興味あり
  • リアルで骨太な警察小説、社会派ミステリーが好き

過去作品の登場人物や事件が絡むため、シリーズを最初から読んでいる方がより深く楽しめる構成になっている。「警視庁公安部・青山望」シリーズを初めて読む人には、「警視庁公安部・青山望 完全黙秘」がオススメ。

この記事を書いた人
Windcastor

小説・ビジネス書・エッセイなど幅広く読む読書ブロガー。
「本の扉を開く」では、話題の新刊や名著を中心に、読後に残る気づきや感想をわかりやすくまとめています。
次に読む一冊を探すきっかけになれば幸いです。

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