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濱嘉之警視庁公安部 青山望

警視庁公安部・青山望『爆裂通貨』|ATM連続殺人から始まる金融サイバー攻撃─工作員に買われた日本の社会的弱者

警視庁公安部・青山望

警視庁警察学校…。同期同教場にたまたま集まった将来のエース達。

その後キャリアを重ねて警視総監にもその名を知られるようになった4人が、日本の暗部や外国マフィアと対決するシリーズ第11弾。

今回は、日本で起きている人身売買がテーマになる。

あらすじ

渋谷でハロウィンが禁止される前のこと。

ハロウィンの夜、渋谷駅前の交差点をマリオに扮した人々が整然と行進する…、群衆は呆気にとられ、感心しながら道を開ける。

しかし、その後まもなく渋谷で4箇所のATMが同時に非常発報する。警官が駆けつけると、ATMに大穴が空いて現金が持ち去られていた。非常発報はさらに2回。結局12台のATMが被害に遭い、最後に非常発報があった4台のATMの前に、マリオの射殺体が1人ずつ残されていた。

この、ハロウィンの雑踏警備のさなかに起きた凶悪事件に、警察は大混乱をきたす。

被害者4名は、DNAから日本に極めて近いと思われたが身元は判明せず、BCGの接種歴がないことから、日本での生育歴は疑わしかった。

同じ頃、海を隔てたハワイでも、ハロウィンのさなかに同様の事件が発生。被害者はやはり4名。中国の偽造パスポートで入国していたが、DNAから日本にルーツを持つ者と推定された。しかし、身元への手がかりはなかった。

更に大きな事件の前触れではないかと懸念する警察庁・警視庁と、トランプ訪日を控え国際テロを懸念するFBIが、青山を窓口に情報交換を始める。

青山は、被害者は日本で生まれ育った無戸籍者ではないかとの疑いを持つ。

感想

今回のポイントは、「無戸籍者」「サイバー金融犯罪」「中国さえ敵に回すことを辞さない北朝鮮の暗躍」だろう。(最後の北朝鮮問題は、深いところのネタバレになるのでこの記事は控える。)

無戸籍者という「存在」

今回の鍵は、日本に1万人いると言われる無戸籍者である。

生まれても戸籍が与えられない背景に、DVや貧困があると言われる。戸籍がないので、当然住民票もマイナンバーもない。彼らは日本政府のデータ上、存在しない。
身分を証明するものが何もないので、特殊な職場でなければ働くことができない。それがどれほど困難なことなのか、自ら理解できないことも多い。

日本にとって有害な国家である中国や北朝鮮、あるいは日本を含む各国の反社団体からそのような無戸籍者がどのように映るか、言うまでもないだろう。

青山は「親になってはいけない人間」といういつもの愚民思想全開の先入観で捜査を始め、「またか」と反感を覚えるが、無戸籍者そのものに対しては感情移入していくようだ。青山のような愚民思想は無戸籍者を増やすことに手を貸すだけである。

さて、青山と協力者の反社組織構成員白谷との会話の中で、無戸籍者の淵源に歴史的な背景もあることが示唆されている。

「大阪、京都と東京、神奈川との違いで顕著なのは、人口比で見ると圧倒的に大阪や京都に在日朝鮮人が多いことでしょう」
「在日朝鮮人問題は日露戦争以降のことだからな……特殊な地域性があるのだろうな」
「関東人の感覚では計り知れないですよ。無戸籍者もそんな中で生まれてきた存在なんです。私たちの間でも無戸籍者は一万人以上は存在していると言われています」

(警視庁公安部・青山望 爆裂通貨)

現代の無戸籍者を取り巻く事情や、救済の動きについては、この問題に長年携わってきた井戸まさえさんの「無戸籍の日本人」を読むとよい。なお、民法772条は既に改正済なので、情報がやや古くなっている。

キャッシュレス社会の弱点

もう一つのテーマは、サイバー金融犯罪。

ハロウィン連続殺人の捜査が進む横で、中国銀聯への大規模サイバー攻撃が起き、2日間停止。デビットカードが使えなくなった中国人観光客がパニックになる。また、龍が追っていたクレジットカード詐欺もやがてハロウィン殺人につながる。

キャッシュレス化は、フィッシングなどの詐欺を実行しやすい舞台を提供してしまう。コンピュータに依存しているため、使用不能になり、経済活動が止まる可能性もある。

詐欺師とリスクはなくならない以上、日頃から自衛が必要だと思わされる。

黒幕を「消した」公安部

さて、いつもの通り最後にめでたく犯人逮捕となる。青山たち公安部は事件の黒幕を逮捕する。無戸籍者を食い物にして殺した北朝鮮工作員に憤りをあらわにしていた青山だったが、「残念」なことに、黒幕は起訴されず、釈放された。

と言うと、「外国人ガー」「スパイ防止法ガー」と騒ぎがちだが、釈放後黒幕の足取りが途絶える。

裁かれる法律がない方が犯罪者にとって恐ろしいこともあるのだ。

こんな人にオススメ

  • 濱嘉之『警視庁公安部・青山望』の続きが気になる
  • 警察、暴力団・半グレ、さらには国際マフィアとの戦いなど、社会の裏側に興味あり
  • リアルで骨太な警察小説、社会派ミステリーが好き

一話完結ではなく、過去作品の登場人物や事件が次の伏線になることがあるため、シリーズを最初から読んでいる方がより深く楽しめる構成になっている。「警視庁公安部・青山望」シリーズを初めて読む人には、「警視庁公安部・青山望 完全黙秘」がオススメ。

この記事を書いた人
Windcastor

小説・ビジネス書・エッセイなど幅広く読む読書ブロガー。
「本の扉を開く」では、話題の新刊や名著を中心に、読後に残る気づきや感想をわかりやすくまとめています。
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