警視庁の各セクションに散らばる同期同教場4人組が裏社会と対決するシリーズ第3作。
山崎豊子の名作『大地の子』に涙した人は多いだろう。しかし、この物語には続きとも言える、残酷な現代のリアルがある。
本作、濱嘉之『警視庁公安部・青山望 報復連鎖』で描かれるのは、中国残留孤児の2世・3世たちが結成した半グレ集団「龍華会」と警察の暗闘だ。言うまでもなく、龍華会のモデルは「怒羅権(ドラゴン)」である。
かつて「大地の子」として大陸に遺された日本の子供たちの子孫が、なぜ日本で反社会的行為に手を染めるようになったのか。本書は単なる警察小説ではなく、現代社会の歪みを告発するルポルタージュとしても読める一冊だ。
あらすじ:築地の氷漬け死体と、その背後に潜む龍華会の影
マグロ殺人事件の怪
青山始め4人の同期カルテットは揃って警視に昇任し、所轄の課長として活躍していた。そんな中、青森県の大間から築地市場に送られたマグロの箱から男性の遺体が発見される。遺体は腹を真っ二つに裂かれ、内臓を取り出されていた。むごたらしく犯行を誇示するような手口。
これは復讐か。大陸系マフィアの犯行か。
原発とつながった被害者、そしてカルテットが始動
動機や犯人像を絞り込めない警視庁は青森県警に公安捜査官を派遣する。そして、被害者の所持品から大間原発や六ヶ所村再処理施設建設にまつわる利害関係を記したメモが見つかり大騒ぎになる。
ここから、同期カルテットの部署を超えた情報収集、捜査協力が始まる。
今回も、裏社会のアクターたちである政治家・暴力団・中国は健在だが、そこに半グレ集団の東京狂騒会と龍華会(言うまでもなく関東連合と怒羅権がモデル)が加わる。
感想:ただの小説ではない。『大地の子』の悲劇が生んだ半グレのリアル
圧巻の半グレ勃興史
半グレ集団の成立、血で血を洗う激しい抗争から合従連衡に動くダイナミックな歴史は圧巻。現実でも警察は半グレ集団の実態把握に後手を踏んだが、その意外な理由は必見。
また、今回も実在の政治家をモデルにした人物を登場させているが、一人は明らかに加藤紘一であろう(実際は息子ではなく娘に跡を継がせたなど、ディテールに違いはあるが)。
取調べシーンは今回も健在で、覚せい剤所持の現行犯で逮捕した世間知らずの国会議員をいたぶり自供に追い込むシーンも見逃せない。
カモフラージュする警察広報
今回も最初の殺人事件をきっかけに裏社会の悪事をいくつも解明し、一斉検挙するのだが、その後の公安部長の台詞がふるっている。
確かに三件の帳場が開いて、それぞれの戒名がついたが、どのマスコミもこれが一つの事件と報道していないんだよな。
それは警視庁がそう発表しているからだろうと突っ込みたくなるが、現実でもこういうことは起きているのではないか、特に「外国人マフィアの抗争と思われる」などと報道された瞬間に違う世界の出来事であるかのように錯覚し、関心を失っていることはないか、考えさせられる台詞である。
歴史が生んだ半グレ集団|残留孤児2世・3世はなぜマフィア化したのか?

1980年代以降、多くの残留孤児たちが日本への永住帰国を果たした。しかし、彼らとその家族を待っていたのは「祖国」の温かい歓迎ばかりではなかった。言葉の壁、差別、そして「中国人」といういじめである。
日本社会から疎外され、居場所を失い、時に攻撃さえされた子どもたち。彼らは自らを守るために集団を作り、やがて反社会的行為に手を染める「怒羅権」に変貌していった。
『大地の子』のその後…、本作ではその強烈な影が描かれている。
こんな人におすすめ
- 濱嘉之『警視庁公安部・青山望』や『警視庁情報官』シリーズを読んできた
- 半グレ集団の実態に興味あり
- 警察組織のリアルな捜査に興味あり
- 政治や原発問題など、社会のタブーに切り込む骨太な物語が好き
過去作品の登場人物や事件が絡むため、シリーズを最初から読んでいる方がより深く楽しめる構成になっている。「警視庁公安部・青山望」シリーズを初めて読む人には、「警視庁公安部・青山望 完全黙秘」がオススメ。

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