1453年のコンスタンティノープルの陥落が、オスマン・トルコとヨーロッパにどのような影響を与え、歴史を変えたのか。
日本におけるトルコ史研究の第一人者が、最新の研究成果に基づき平易に解説する示唆に富んだ入門書。
概要
大きく、「コンスタンティノープル陥落の経過」「コンスタンティノープル陥落が世界に与えた影響」「その後のオスマン・トルコ」の3部に分かれる。
まず、コンスタンティノープル陥落の戦闘経過が、研究成果に基づき簡潔明瞭に描かれている。
次に、コンスタンティノープル陥落が当時のヨーロッパにどのような衝撃を与え、反応を呼び起こしたのか、その後メフメト2世治世下のオスマン・トルコをどのように発展させたのかが平易に述べられている。
最後に、メフメト2世後から現在に至るまで、トルコ国内でコンスタンティノープル陥落という歴史がどのように描かれ、認識されるようになったのかが、その後の歴史とリンクする形で丁寧に述べられる。
感想
コンスタンティノープル攻略戦の経過は、学会のコンセンサスをベースに、必要十分な情報がまとめられており、塩野七生の小説を読んだ後にこれを読むと、非常にスッキリと頭が整理される。
第2部以降は、「世界史図説タペストリー」などの資料集と見比べながら、じっくり読み進めるのがよいだろう。オスマン・トルコの歴史に詳しい日本人は、それほど多くはないだろうから。
長い本ではないので速く読もうと思えば可能だが、あえてゆっくり読むと意外な発見があるのではないあろうか。
以下、心に残ったエピソード
- 受験界では、プレヴェザの海戦からレパントの海戦までをオスマン・トルコの最盛期とし、以後を衰退期と位置づける事が多い(「タペストリー」はまさにそう)。しかし、著者は「常識」に異を唱える。歴史解釈の多様性が印象に残る場面だ。
- 15世紀のオスマン・トルコでは1492年に世界が終わるという終末思想が流行っており、コンスタンティノープル陥落は終末への入口とみなされ、かえって社会不安を煽ったという意外な事実。
- 現在の大統領エルドアンは陥落劇をトルコの偉業としてことさらに政治利用する。しかし、メフメト2世がヨーロッパ文化を取り入れようとしたコスモポリタンという側面を無視した切り取りではないかと、著者は史実に基づき批判的に見る。
こんな人にオススメ
- ヨーロッパ中世史やオスマン帝国史に関心がある
- 中東・トルコの歴史と文化を理解したい


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