はじめに
江戸時代の禅僧良寛の伝記。
子供の頃に読んだ百科事典の影響で、良寛には子供好きで、一日中子供と手まりをついて遊んでいたいい人というイメージが強かった。
しかし、良寛は若いころに厳しい修行に打ち込み、成就してきた、宗教者としての揺るぎない太い背骨を持っていた。そして、書道や詩歌に優れる風流人でもあったという。
あらすじ
上巻では、近所の寺に出家して以来、ストイックに修行に邁進する良寛が描かれ、張りつめた緊張感がある。良寛が食事や身だしなみの作法を真似ながら学ぶ場面では、仏教における正しい作法が事細かに描かれている。
仏教の教えとは、死後の世界と精神論を説くだけではなく、日々の生活をよりよく生きるための具体的な指針を示すものでもあることを教えられる。
下巻になると雰囲気が変わる。
父の死をきっかけに、良寛の視線が自分から衆生に向けたものに変わっていく。そんな良寛の温かいエピソードが描かれる。
「優しい良寛さん」のイメージそのままに、日々、子供と遊ぶ。
一方で、疫病で次々と子供が亡くなっていくことに、この世の無常を感じずにはいられない。
そして老境を迎え兄弟や友人が次々と苦境に陥ったり亡くなるようになり、良寛は次第に寂寥を強く感じるようになる。
感想
この本とともに良寛の一生をつぶさにたどることで、今までの良寛に対する見方が変わった。芯の太さと、人生の無常、そして晩年の寂寥…。
作者の立松和平が執筆中に亡くなったため、良寛の最期が描かれることなく突然終わっていることが、その余韻を一層深めている。
随所に良寛の手になる短歌・俳句・漢詩が散りばめられ、鑑賞するのも一興。
不勉強な話だが、これまで立松和平はニュースステーションで旅行していた人という認識しかなく、仏教に関する本を多数著している作家だということも本書で初めて知った。
こんな人におすすめ
「良寛さん」の真の姿を知りたい
東洋思想や仏教に興味アリ
文学作品から人生の示唆を得たい
「未完の美しさ」に触れたい
美しい詩歌を味わいたい
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